2023年9月1日から10日まで、タイにスタディツアーを行いました。

様々な大学の様々な学部の学生が、様々な課題/分野をマクロからミクロまで一緒に学びディスカッションする機会でした。
今回は、9月1日から8日までの一般学生コースと、それに加えて9日10日に医療、福祉関係の学生を対象にしたコースを実施しました。
 
 
※次回は、2025年3月ころに実施予定です。
 関心のある方は連絡ください。
 
参考:野毛坂グローカルの実施するスタディツアーにについて
   https://nogezaka-glocal.com/study/

特徴:

・政策レベルからコミュニティまで経験できます
・少人数でリアルな現地課題を学べます
・国際協力経験が深いスタッフが同行します
・比較的安価に参加いただけます
  
 

参加者(一部参加を含):
片桐碧海 東京医科歯科大学博士課程2年
松山峻大 滋賀医科大学医学部4年
榎本春音 東京大学2年
大嶋勘太 青山学院大学1年
奥井真菜緒 早稲田大学1年
神谷綾音  早稲田大学3年
張子晴  チュラロンコン大学1年
古田夢歩  明治学院大学2年
宮内正枝  創価大学1年
民田奈津未 国際教養大学 3年
西脇知里   国際開発ジャーナル社
神谷優大 野毛坂グローカル理事
三好友良 東京大学博士課程1年

 
 
 

スケジュール:
9月1日(日)  バンコク集合
9月2日(月)
 ・ オリエンテーション
 ・アジア太平洋障害者センター(APCD)
     ・社会開発人間安全保障省障害局
 ・国際協力機構(JICA) タイ事務所

9月3日(火)
 ・スマート&ストロング プロジェクト (ブンイトー市)
   市立病院、デイケアセンター、高齢者活動センター
 ・ランシット ミャンマー 人向けラーニング センター
  ミャンマー人困窮家庭訪問
 ・タマサート大学 講義:タイにおけるLGBTQ+
      LGBT+ 学生たちとの意見交換会
      ロブリ県に移動 
9月4日(水)
 ・ロブリ遺跡 
 ・プラパートナンプ寺院 ホスピス・HIV感染者の居場所
 ・カオプラガム市 コミュニティ活動および困窮家庭訪問
     バンコクに移動  
9月5日(木)
 ・国連開発計画(UNDP)アジア太平洋事務所
 ・社会開発人間安全保障省国際局 
 ・横浜銀行バンコク駐在員事務所
 ・日経新聞社アジア総局
9月6日(金)
 ・プラウェート スラム ゴミ集積場
 ・在タイ日本大使館
 ・パーソネルコンサルタンツ株式会社  
 ・アジア経済ニュース NNA ASIA
9月7日(土) 
 ・シラパコン大学 学生とのワークショプ
 ・夜:アンパワ水上マーケット、ホタル見学
9月8日(日) 
 ・移民労働者向け識字教室(FRY)
 ・マングローブ植林地見学
 ・振り返り会
9月 9日(月)
・バンコク中央病院(公立病院)
・バンコク都立診療所
・プリンス病院(私立病院)
9月10日(火)
 ・訪問診療同行
 ・保健省健康局
・ヘルスセンター(タンボン健康増進病院)

   

 

※SMART&STRONG プロジェクト
高齢化が進行する日本とタイの両国において、国際協力機構(JICA)草の根技術協力事業のもと自治体やNGOが主体となり、地域コミュニティに根差した高齢者ケアの仕組みや活動を、多様な機関・団体によって構成されるネットワークを通して普及しています
http://smart-strong-project.org/

 

報告書例:

宮内正枝  創価大学1年
私は今回のタイスタディーツアーに参加させていただき、一生忘れられない貴重な経験をすることができました。私にとっては初の海外であり、勇気のいる挑戦でしたが、飛び込んでみて良かったと思っています。奥井さんはじめ、訪問を受け入れてくださった全ての皆様、学び合ってくださったメンバーの皆さん本当にありがとうございました。 新しい視点や気づきはもちろん、自身の中にあった思い込みを知ったり、関心を深めることができました。それは、全ての生命の尊厳が守られる平和な世界をつくるにはどうしたらよいのか、自分には何ができるのか考えるきっかけになりました。 今回、私は課題解決に取り組む人々や生活に困難がある人々に直接会いに行くことでしか得られないことを学びました。例えばスラム一つとっても、今までは教科書やニュースからしか情報を得ることができませんでした。しかし、それは発信者の意図のもとに切り取られた情報であり、また、どこか遠い国で起きていることとして捉えてしまいがちです。 実際に訪れてみると、そこは想像よりもはるかに厳しい場所でした。道や家の周りには大量のゴミ、家の作りも壊れてしまいそうで見ているだけで不安になるようでしたが、それは私が暮らす安全な環境と比べているから感じることでした。そこで暮らす人々の表情を見ると、彼ら彼女らにとってはこの環境下で生活することが当たり前なのだと受け入れるしかありませんでした。そこにはミャンマーからの移民も多くいて、男性は隣のゴミ集積場で分別をして働いていました。移民はスラムの外には簡単に出られず、子どもたちは学校に通えていません。最近はあるNPO団体が読み書きや算数を教えにきているそうですが、それもいつ終わるかも分からないと聞き、教育の機会や質が保障されないとはこういうことかと思い知らされました。移民に対する差別、生活することで精一杯な家計の状況、国家の方針や近隣住民からの理解、教育を受ける権利の捉え方、、それぞれの立場によって意見は異なり、見えている世界も異なるのだと知りました。 この現状に対して私は、政治、人権、教育、福祉と専門分野を持つ人々が協力して、それぞれの使命と共通の目標達成のために動くことはできないものかと考えています。スラムに住む人々の問題解決とは、ただ支援者が一方的に労働や教育の機会を与えれば良いことではありません。スラムの人のために動くことが自分たちのためにもなる、社会をよくすることになると納得できなければ力を合わせることは難しいでしょう。まずは、各組織がスラムの人々のために働く理由、その必要性を明確にした上で、共通の理想を持たなければなりません。例えば、国家、行政は人権保護に取り組むことで国際社会からの信頼を得ることができます。また、周辺住民にとっては他文化を持つ人々との共生によって、差異を越えて理解し合うことや他者を尊重することを体験し、互いの心が広く豊かになっていくことでしょう。これはただの理想郷にすぎないかもしれません。しかし、小さなコミュニティだからこそ人同士の距離が近く、心の距離も近くいられる、一人ひとりを思いやって生きる社会をつくることができます。こうした国民の中で互いの理解が進むことは、必ず国家を動かす力になり、政治的な関係改善にも貢献できます。私は、そのような人々の心が信頼と愛で結ばれる社会をつくりたいです。移民に限らず、障がい者や高齢者、多様なジェンダーも、自然と受け入れていく心を持つ人が増えることで、インクルージョンは実現されるのではないでしょうか。さらに、それは人々が生命は全て平等であり尊い存在なのだと自覚することに繋がっていきます。 このことから、私は社会課題解決や平和創造といっても主役は民衆であると思います。国連や国や大企業など大きな影響力を持つものについていくだけでは、きっと世界は変わりません。自分や身近な人が何に苦しんでいるのか、どうしたらそれぞれの力が発揮されていくのか考えること、今の勉強や仕事が誰のためになっていて、見えない誰かの犠牲の上に成り立っていないか考え直すこと、そして今の自分と世界との繋がりを知り、創りたい未来のために何か行動を起こそうとする、そういう世界市民のリーダーを増やしていくことが重要です。世界市民のリーダーは主婦であっても、会社員であっても、学生や会社員でも、誰でもなれるものです。今回多くの場所を訪問して気づきましたが、あの人のために、世界のためにという意識を持って日々過ごしている方々は生き生きとして輝いています。 私はこれから勉強をする中で、今回のスタディーツアーでお会いした方々のお顔を時折思い浮かべ、今も困難に立ち向かいながら生きている人がいることを忘れないようにします。また、彼らは決して助ける対象ではなく、共に生きる、学ばせていただく相手であることを心にとめて、社会課題と向き合っていきたいと思います。最後に、将来力ある人材になるために、今は何かの分野で専門家になることを目指し、徹して学び抜いていきます。

松山峻大 滋賀医科大学医学部4年
「医師は困っている人を助ける素晴らしい職業だ」 タイのスラムで出会った少女の言葉に、私は一瞬時が止まったかのように、心を強くつかまれた。 「困っている人は、いったい誰を指すのか」 それはもちろん、病気で困っている人かもしれないし、病気なのに治療を受けられない人かもしれない。 訪問診療に同行させていただいた際に、最初に訪れたご家庭の女性が、6年前に腰部にけがをしてから、その影響によって寝たきりで歩くことすらままならない状態でいた。そして、その6年間、金銭的なハードルから、自分が医療を受けられることを知らずに、適切な治療を受けていないままであった。医師の先生をはじめ、私たちの姿を見ても、その女性の方は気丈にふるまっていた。しかしながら、今後、適切な医療が受けられることを知ると、強く涙を流された。日本から同行していた医師の先生と、「まだ若い患者さんだし、これから治療を受ければ、きっと元気になりますね」と話した。 将来医師になって、病院にやってきた患者さんが助けを求めていれば、私は何とか治療をすることができるかもしれない。だが、病院の外ではどうだろうか。病気で困っていても、金銭的に病院に行くことが難しいことや、保険の制度上でも厳しいことがある。この女性の患者さんだってそうだ。いくら助ける力があっても、医師は治療を行うことができていなかった。 次のご家庭に行く時間になって、皆さんが移動の準備をしている時に、私は思わずベッドの横に膝をつき、その女性の手をしっかりと握った。言葉は伝わらないが、「大丈夫、きっと治ります」ということを伝えたかった。その女性も、息子さんも涙を流しながら手を握り返してくれた。言葉は分からなかったが、「来てくれてありがとう」という思いはしっかりと感じ取れた。 この訪問診療の数日前、今回のスタディツアーを主催してくださった奥井さんから「木を植えても、その後手入れしてあげないと、育たない」という話をいただいていた。 あの時、私が女性の手を握ったことは、その後この土地に残って医療に従事するわけではない私が行っては良くなかったのかもしれない。日本に帰ってきた今でも、ふとした時にそう思う。だが、今の私が、医師になる前の私が、目の前の患者さんにできることを考えて、行動に移した。 お店が並び、車が走って栄えているように見える街でも、一つ道を挟めば、スラムで出会った少女や訪問診療で訪れた女性のように、病気になっても治療を受けられないかもしれない人たちが多く存在している。 「広い意味での医療には、社会もコミュニティも福祉も経済もある」 このスタディツアーに参加する後押しとなったのは、主催者の奥井さんからのこの言葉であった。医学部の授業は、医学の知識についての授業がほとんどである。教育改革が進み、一般教養や医学概論の授業があったとしても、結局は医学に関する授業がほとんどで、レポートで「多職種と連携することが大事」なんて模範解答ばかり書いて、結局本当の現状を知らずに医療現場に出ることになる。このままの自分で良いのかという不安と、実際の世界はどうなっているのか知りたいという気持ちで、参加へ踏み切った。 今回、本当に色んな立場の方々にお会いさせていただいた。訪問診療から、病院見学、そして、保健省や国連など、ミクロな視点からマクロな視点で、広い意味での「医療」の一端を実際に目でみて、聞いて、感じて、知ることができた。健康に生きるには、医療だけでなく、医療・福祉の制度に加えて、食生活や住居など、多くのものが密接に関わっている。これらを学べた経験は、これから私が医師としてここに介入できることの可能性を感じさせ、「自分はもっと強くなれる」という強い気持ちを抱く契機となった。 また、参加した学生のバックグラウンドも多種多様で、毎日の議論も刺激的だった。ジェンダー、身体的なハンディキャップ、いじめ。それぞれが抱える事情は異なり、皆の目的は違うが、その胸に抱く目標は同じだったと思う。 私は将来、医師として医療現場に従事する。「目の前の患者さんに加えて、これから病気で困る患者さんも救いたい」という志があっても、日々の業務にかまけて、その思いが薄らぐこともあるだろう。それでも、私は日々精進し続けたい。諦めずに進み続ければ、今回出会った仲間たちのように、目標を共にする人たちに出会う。そして、その積み重ねが、大きなことを成し遂げていくと、私は信じている。
 
神谷綾音  早稲田大学3年 
今回のタイスタディツアーに参加して、私の世界観がまた一つ広がったように感じている。スタディツアーは内容がとても濃く、実際は1週間だったが、1か月間もタイにいた気がしている。 私は大学での専門は生命科学だが、新しいことを学んだり、体験したりすることが好きで、自分の専門とは異なる分野について学ぶことに面白さを感じている。今回のスタディツアーに応募するにあたって、海外の経験があまりないということや、私自身聴覚障害があるということもあり、正直不安なことは沢山あった。しかし、「参加しなければ、絶対に後悔する」と思い、締め切りギリギリに思い切って応募をした。あの時、その決断をした自分を褒めてあげたい。参加をして大正解だった。 スタディツアーでは、一日に3か所以上のNGOやコミュニティなど様々な機関に訪問することが多く、また訪問後はグループのみんなでディスカッション(振り返り)を行った。スタディツアーに参加した人たちは、それぞれ異なる分野を専攻しており、ディスカッションでは自分とは異なる視点からの感想や考えを知ることができ、また最後の方には奥井さんからのフィードバックを受けることができてとても良い学びになった。また、毎日朝や夜に一人ずつ「一人語り」の時間というものもあった。自分がどういう人なのか、今までどう生きてきたのか、将来についてなどを約30分話すものだ。この一人語りで、みんなのことをよく知るきっかけにもなったし、みんなこれまで様々な悩み、辛いこと、葛藤があってそれでもそれらを乗り越えてここにいるということを実感した。 APCDや社会開発人間安全保障省、JICAタイ事務所では、インクルーシブ教育の在り方やその意義について考えさせられると共に、タイでは障害当事者をエンパワーメントしていくことに重点を置いていていると感じた。特にIDカードやその仕組みに関しては、日本が見習うべき面もあると感じた。しかし、その一方で取り残されている障害者もいるという実態を知り、当事者のニーズは当然異なるため、個人個人にあったニーズに合わせた合理的配慮を受けられるような社会をお互いに目指していく必要があると感じた。 タイも日本と同様に少子高齢化が進んでいる状況の中で、その問題に対してタイがどのように取り組んでいるのかというのは個人的に気になっていた。ブンイトー市のデイケアセンターや高齢者活動センター、カオプラガム市の自治体に訪問し、高齢者の方々が生き生きとリハビリを受けている姿や周りの人と笑顔で会話をしている姿を見て、本来私がイメージするデイケアセンターとはかけ離れていると感じた。またその一方で、若い世代の人材育成、高齢者体験グッズの効果と限界、情報格差などいくつかの課題点があることにも気づいた。 ミャンマーラーニングセンターやプラウェートにあるスラム、タイ日本大使館、FRYなどにも訪問し、移民・難民問題をひしひしと身近に感じたのと同時に、ミャンマーとタイとの関係性や人権問題、労働や教育などの在り方など複雑な背景があり、解決することの難しさを改めて知った。 今回はスタディツアーでは、タイにおける障害者や高齢者、難民に対する支援について学ぶ機会が多かったが、どの支援についても「持続可能な支援」が今後の社会問題の解決の鍵に繋がると感じた。それを達成するためには一つの視点や分野のみではなく、複数の視点や分野を融合して包括的に取り組んでいくことが大切になってくるということ、そして何よりも当事者の意見が反映されているということが大切だと強く感じた。先入観を捨てて、当事者の本音に耳を傾け、社会全体で何ができるのか考えていく姿勢を作っていくことが今後の社会のためになるのではないかと考えた。 まとめると、このスタディツアーで私は、現地を訪れて、そこで働いている方や生活をしている方の話を聞き、メディアを通しては感じられない雰囲気やその背景、人の表情の変化、匂いを直接感じることができた。現場に行き、直接自分の目で見たり、体験をしたりするからこそ知ることができることや感じることのできることが沢山あると強く感じた。また、一つの物事に対して一つの視点だけでなく、様々な視点から考えるということの大切さを感じた。同行したみんながいたからこそ得られた視点や知識が山ほどあった。 日本に帰国してから、自分はこれほど狭い世界の中にいたのだ、まさに「井の中の蛙」だということを改めて自覚している。今は以前よりも科学技術が発展し、その恩恵でテレビや新聞、インターネットなど様々なツールから世界中の情報を簡単に得ることができてしまう。しかし、その文字や画面越しには当然人々がいて、その人々の暮らしがあるということを決して忘れてはならない。 私は井の外の世界をもっと知りたい。自分の中の世界観を少しでも広げていくために何ができるのか、この社会に対してどうアクションを起こすことができるのか考えていきたい。そして、私は、今回のタイスタディツアーに参加したことで、新たな夢ができた。その夢を実現させるのには時間がかかってしまうかもしれない。でも、今回私に新たな価値観を与えてくださった方々への恩返しになると信じて、日々努力していきたい。

奥井真菜緒 早稲田大学1年  
今回スタディツアーに参加することを決めた理由は、タイは私が生まれた国であり、自身の故郷について文化面だけでなく政治状況や制度、タイが現在抱える問題とそれに対してどのように対処しているかについて学び、吸収したいと考えたためである。また、タイの様々な機関を訪問しタイの人々と交流することでタイの実情に迫るまたとない機会だと思ったためだ。 アジア太平洋障害者センター(APCD)に訪れた際に、障害をもつ人々との関わり方は大まかに分離(特別)・結合・包摂の三つがあるが、現在は分離という方法だけが重視されがちであるという話を伺った。私が通っていた小学校でも、特別支援学級という名前で分離が実施されていたことを思い出し、障害者が不自然なほどに身近にいないことが普通になっていたことに気づくことができた。小・中学校の教育の目標のひとつは多様な人々が生きる社会でどのように人間関係を築くかを学ぶことであり、そのような場に障害者だけがいないことは多様性が著しく欠けている状態だと思った。また、障害という言葉は日常生活に著しく制限する社会的障壁そのものを指すものであるということばは、私の中での障害との向き合い方に大きな影響を与えた。 JICAやラーニングセンター、プラウェートのスラム街など様々な機関・地域でタイにおけるミャンマー人の状況について話を伺い、タイにとってミャンマー人移民は貴重な労働力であり歓迎する一面もある一方、ミャンマー政府と良好な関係を維持するという点でタイへ移り住もうとするミャンマー人を受け入れがたいという一面もあることを知った。こうした背景があり実際に、スタディツアー中であった9月5日にスラータニー県のラーニングセンターにタイ政府から閉鎖命令が出ており、タイにおけるミャンマー人を取り巻く環境は極めて複雑なことを実感した。 タイでは国籍に関わらず誰でも中等教育まで受けることができるという制度があり、制度面のみをみれば外国人の子供の教育体制が充実しているように見えるが、実際は教育で用いられるタイ語を使うことが出来ないために、教育を受けることが出来なかったりドロップアウトする人が多く、タイの教育機関に入る前にタイ語を勉強する場としてラーニングセンターを運営していることを伺った。制度の理念自体はとても素晴らしいが、制度をおおまかに制定するだけでは支援にそのまま結びつかないこともあり、発生した問題を都度意識していかなければならないと感じた。 タマサート大学でLGBTIQNA+について議論した際、タマサート大学のスライドでのLGBTIQNA+で最も大事な理念は「+」の部分である、という言葉に感銘を受けた。「+」とはLGBTIQNAに含まれない人々を指しており、名称がつけられていない人もこの記号によって含まれている。人々は性的指向という点以外でも皆多様であり、ひとりひとりグラデーションを持っており、全ての人をあまさず分類することは難しい。すべての人を包括するという意味で、この「+」はなによりも重要な概念であると感じた。 移動途中に立ち寄った仏教寺院のような外装の教会が大変興味深かった。外装の大部分は仏教寺院特有のものでありながら一部に十字架や聖母マリアの絵画が描かれており、内部は一般的な教会のようであった。少数派であるキリスト教徒が、タイで多数派である仏教徒に受け入れてもらえるよう仏教寺院を模して作ったものであると伺った。外装は仏教寺院によく似ているが内装は教会そのものであるという部分から特に、タイにおけるキリスト教の立ち位置を視覚的に明確に表していると感じた。また、タイの街や文化からインドのヒンドゥー教と中国の影響を強く感じた。今やバンコク周辺のタイ人はほぼ中華系タイ人であることもあり、タイにおいて中国の影響はかなり大きいと感じた。 PNKG recovery centerに訪問した際に、タイでは家族や地域のコミュニティの結束が強く、日本では自立が求められやすいという国民性が、リハビリテーションの方針に強く影響を及ぼすことがあるというお話が興味深かった。タイではコミュニティの結束が強く人助けの精神が深く根付いているうえに、リハビリテーションが普及していないためオーバーケアが起こりやすいという話を伺い、タイの人々の人助けの精神がかえってマイナスに作用してしまうケースがあることを知った。リハビリテーションはただ身体の機能を向上させるためのものではなく、人が人らしく生きるためになにをしたいのか、そのためにはどんな身体の機能を向上させなければならないのかを考える活動であるという言葉は印象に残った。 今回のスタディツアーを通して、タイが抱える社会問題や状況を、多くの機関に訪問し議論を交わしたことで様々な視点から考えることが出来たと思う。私自身が知識不足であったこともあり、スタディツアーの前半では知識を余すことなく吸収することを目標に参加していたが、後半では前半に得た知識をもとに考察することができ、たった数日間の経験であったが自分自身の成長を実感することができた。複数の機関で一つの同じテーマのお話を伺うことがあったが、説明の微妙な差異から様々な立場からの視点を学ぶことができ、とても有意義だった。また、タイについてだけでなく、今まで熟慮したことのなかった障害者やLGBTQ+についても自身の誤認識に気づき、考えを改め深める場になった。今回様々な社会問題について考え、悩んだ経験は、これから社会問題について考え解決に向けて具体的な行動を起こすためのはじめの一歩になったように思う。