地域の力で、すべての子どもが教育を受けられる社会を目指して
タイでは、周辺国から多くの移住労働者が暮らしています。
タイ政府は、国籍にかかわらず、すべての子どもが公教育を受けることを認めています。しかし実際には、言葉の壁、教育制度に関する情報不足、保護者の生活環境、地域社会の理解不足など、さまざまな理由によって学校に通っていない子どもたちが存在しています。
野毛坂グローカルでは、笹川平和財団、国際労働財団、タイの地方自治体、地域住民、大学などと協力し、地域社会の力を活かして移住労働者の子どもたちの就学を促進するプロジェクトを実施しています。
2025年度は、タイ東部ラヨン県タップマー市をパイロット地域として、地域住民による就学促進ボランティアの活動、未就学児童の把握、学校関係者や保護者への理解促進、日本とタイの相互学習などに取り組みました。
地域社会が主体となる就学促進の仕組みづくり
このプロジェクトが重視しているのは、外部の団体が一方的に支援を行うことではありません。
自治体、学校、地域住民、コミュニティリーダー、大学などが協力し、地域の課題を自分たちで考え、行動し、その経験を他の地域と共有していくことを目指しています。
タップマー市では、地域のコミュニティリーダーなどが「就学促進ボランティア」として活動しています。
地域の中で学校に通っていない子どもを把握し、家庭を訪問して保護者にタイの教育制度を説明するなど、子どもたちと学校をつなぐ役割を担っています。
困難な状況の中でのプロジェクト
2025年度の活動は、決して順調に進んだわけではありませんでした。
地方統一選挙に伴う市長交代や行政手続きによる事業の一時停止に加え、タイ・カンボジア国境情勢の悪化により、カンボジア人移住労働者が多く暮らすタップマー市では、外国人支援に対する地域感情が悪化するという難しい状況も生じました。
こうした中でも、自治体、学校関係者、コミュニティリーダーとの対話を継続しました。
また、市長、副市長、行政職員、コミュニティリーダーが日本を訪問し、日本の自治体、NPO、地域団体などの活動を視察しました。
日本の経験をそのままタイに導入するのではなく、日本の事例を参考にしながら、タップマー市に適した方法を地域の関係者自身が考える機会としました。
日本での研修と相互学習
2025年10月には、タップマー市長、副市長、行政職員、コミュニティリーダーなど6名が日本を訪問しました。
笹川平和財団、国際労働財団、外国ルーツの子どもたちを支援するNPO、横浜市内の地域コミュニティ、湯河原町などを訪問し、多文化共生、子どもの支援、住民参加型の地域活動について意見交換を行いました。
行政関係者だけではなく、地域のコミュニティリーダーが研修に参加したことも、この研修の大きな特徴です。
研修を通じて、行政と地域住民が一緒にタップマー市の課題や今後の活動について考える機会となりました。
高齢者と外国人の子どもたちをつなぐ新しい活動
プロジェクトを進める中で、新しい取り組みも生まれました。
それが、地域の高齢者と外国人を含む子どもたちとの交流活動です。
高齢者が子どもたちにタイ語や地域の文化、生活習慣を教え、一緒にさまざまな活動を行います。
この活動は、子どもたちにとってタイ語や地域社会について学ぶ機会になるだけではありません。
高齢者にとっても、自らの経験や知識を次の世代に伝え、地域社会で役割を持つ「生きがい活動」になります。
2026年1月と3月には、タップマー市において、高齢者と子どもたちによる交流イベントを開催しました。
タイ語教室、地域の文化を学ぶ活動、環境活動、養蜂活動など、地域のさまざまな人々が参加する活動へと発展しています。
原報告書8ページの活動写真からも、日本でのMOU署名や研修、高齢者と子どもの交流イベント、ワークショップなど、行政関係者だけでなく地域住民を巻き込んだ活動の広がりが確認できます。
自治体との連携を強化
2025年度には、プロジェクトの持続的な実施に向けて、関係機関との連携体制も強化しました。
2025年10月には、笹川平和財団、国際労働財団、野毛坂グローカル、タップマー市による覚書(MOU)を締結しました。
さらに、2025年12月にはバンコク都ともMOUを締結し、タップマー市で得られた経験を他の地域と共有していくための協力関係を構築しました。
これからの取り組み
移住労働者の子どもたちの就学問題は、一つの団体や一つの自治体だけで解決できる問題ではありません。
自治体、学校、地域住民、移住労働者の家庭、大学、NGOなど、さまざまな関係者が協力する必要があります。
今後は、タップマー市での経験をもとに、
- 地域住民による就学促進活動の強化
- 学校に通っていない子どもたちの把握と就学支援
- 高齢者と外国人児童との交流活動の発展
- 就学促進ボランティアガイドブックの活用
- 自治体間での経験共有と学び合い
- ラヨン県内およびタイの他地域への活動の展開
を進めていきます。
今後とも、外部から「支援する」のではなく、地域の人々が自ら課題を考え、行動し、その経験を他の地域と共有する「地域主導の取り組み」と「学び合い」を大切にしながら、すべての子どもたちが教育を受けることのできる社会の実現を目指していきます。


